研究概要 |
光やプロトンのような外からの刺激に応答して多段階に物性を変化させることのできるクロミック金属錯体分子を集積化することでナノ機能性材料への展開が可能である。これまでドナー(D)-アクセプター(A)系であるフェロセン-キノン共役接合錯体を合成し、プロトン付加によって分子内電子移動が制御可能であることを見出し、分子内電子移動により生じる構造変換やそれに伴う酸化還元電位の変化、原子価互変異性など系の多様な構造、物性変化について明らかにしてきた。本年度は、ドナーを2つ有するD-D-A接合錯体とD-A-D接合錯体を新たに合成し、集積化が及ぼす物性変化について検討を行った。 1'-エチニルビフェロセンと1-ブロモアントラキノンのクロスカップリング反応によりD-D-A共役錯体、1-BFcAqを新規合成した。1-BFcAqのベンゾニトリル溶液にトリフルオロメタンスルホン酸を段階的に添加した際の紫外可視近赤外吸収分光測定を行った。吸収スペクトルより、510nmのMLCT吸収帯の吸収強度の増加と1030nmのIVCT吸収帯出現が観測され、D-A=1:1型分子と類似した結果を得た。このことは、1-BFcAqのプロトン付加体では、分子内電子移動によってA部位と隣接するフェロセンのCp環がフルベン骨格となっていることを示している。電気化学測定においては、酸添加前はビフェロセンの酸化は混合原子価状態の生成を伴う2段階1電子反応として観測された。この測定系にプロトンの段階的添加を行ったところ、2段目の酸化波がフルベン骨格への構造変換を示す結果を得た。このことは、1-BFcAqを酸化すると末端のフェロセンが先に酸化を受けることを示しており、プロトン応答と酸化還元応答に対し、異なったD部位が応答するという興味深い知見を得た。 また、エチニルフェロセンと1,4-ジブロモアントラキノンのクロスカップリング反応により合成したD-A-D共役錯体、1,4-Fc_2Aqでは、種々の溶媒(CH_2Cl_2,CHCl_3,THF,ο-C_6H_4Cl_2)から10×10Åのナノ孔を持つ単結晶が得られ、この単結晶では、π-πスタッキングによって、D部位とA部位が交互規則配列構造を持ったカラム構造を持つ配位高分子となっていることを明らかにした。
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