研究概要 |
本研究は植物珪酸体分析により,熱帯雨林構成種の局所的置換の解明法を開発することを目的とする.本年度11,12月にマレーシア国サラワク州の熱帯雨林で,前年度に続いて現地調査を行った.2年の研究期間で得た成果および暫定的結論を以下に記す. 1)落葉散布様式 既設の52ha調査区に優占するフタバガキ科竜脳樹の中から,孤立状態の大径木5個体を抽出し,トラップを用いて落葉散布様式を調べた.当該種は微風(落葉データからの推定平均風速0.3〜0.5m/sec)の卓越する5〜7月の乾季に落葉を集中させた.個体の根元からの距離20m以内に個体総落葉量の95%が落下し,落葉起原の植物珪酸体の土壌中への集積と当該種の個体の住み場所が誤差20m程度で対応することが解った. 2)落葉データベース 樹木の落葉散布様式の詳細を把握するため,竜脳樹を含む62種の樹木から各10枚の落葉を採集し,落下速度,形態特性を測定し,落葉データベースを構築した.運動方程式を基に,落下物体の空気抵抗の推定法を開発し,その成果を学会大会(山倉ら2003)及び学術誌に発表した(山倉ら2003).落下速度の2乗に比例する空気抵抗係数は平均0.893となった. 3)植物珪酸体ライブラリー 落下速度を測定した62種の樹木の落葉,スゲ科植物,イネ植物の標本を日本に持ち帰った.これまでに28種の樹木の植物珪酸体を分析し,落棒状,球状,非晶質の珪酸体を見出した.竜脳樹のそれは非晶質で,形態は日本のブナ科植物のそれに類似していた.また被食防衛物質としての珪酸体の働きが示唆された.分析は途上にあるものの,特殊な種を除けば,フタバガキ科では種特異的な形を持つ植物珪酸体は少ないと思われた. [結論]フタバガキ科の植物珪酸体の形態に種特異的といえるものは少ないようであるが,限定された種については熱帯雨林構成種の局所的置換を推定し得る可能性がある.
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