研究概要 |
生物対流現象の動的不安定性特性を調べる目的で,遠心機による重力付加を行い,過重力が生物対流の誘導過程と定常的なパターン形成にどのような影響を及ぼすかを調べた.生物対流に関しての理論的研究では,対流の誘導過程を密度勾配層の不安定性の問題として説明しようとしてきた.その結論として,不安定性の指標となる無次元のパラメータ(Rayleigh数)が定義され,この値が一定の閾値を超すことで対流が発生するとされている.テトラヒメナの密度と容器の深さを調節することによって作り出された臨界Rayleigh数下状態の細胞懸濁液を遠心し,重力加速度を増加させていったところ,ある一定以上の重力加速度でパターン形成が誘導されることがわかった.過重力によるパターン形成の誘導は可逆的であり,加速度の減少につれてパターンは消失した.このことは,生物対流の誘導がRayleigh-Taylor不安定性を反映した現象として説明できることを示唆している.初期の誘導過程が過ぎると,生物対流は定常的なパターン形成が維持される時期に移行する.このときのパターンにステップ状に変化させた遠心過重力を付加したところ,重力加速度が増加するにつれて,明らかにパターンサイズが減少することがわかった.このような生物対流パターンの示す鋭敏な重力応答は本研究によって始めて示された.重力応答特性は,部分的には以前からの流体力学的理論(Rayleigh-Taylor不安定性)に合致したが,不一致も多く見られ,理論の再検討の必要性が示唆された.特に,クラミドモナスの示す重力応答は,これまでの理論を覆すものであった.これらの結果は,生物対流では重力受容等の物理特性以外の特性がより強く作用し,それらが個体間の相互作用の動的不安定特性を通して重力への鋭敏な応答を引き起こすことを示唆している.
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