研究概要 |
磁場を印加すると食品中の氷晶サイズが顕著に変わることがあることは,経験的には知られているが,そのメカニズムは殆ど不明で,効果がないという報告もあり,系統的な解明は寡聞である.本実験の磁気物性の測定により,少なくとも磁気損失のエネルギーが核生成に熱力学的影響を及ぼしているものではないことが示唆された.本年度は,交番磁場・電場の印加が氷結晶粒に及ぼす影響を実験的におこなった. 交番磁場を用いた実験では,渦電流と静磁場により発生するローレンツ力(金属の凝固で用いられている)が氷晶生成に及ぼす影響を調べた.実験では,KCl水溶液で約10mS/cmに導電率を調整したトレハロース水溶液に数百mTの静磁場と直交するように50Hz〜100kHzで数10mTの交番磁場を印加しつつ,一定の冷却速度(約1℃/min)で冷却・凍結した.蛍光顕微鏡により観察された氷晶は,全ての周波数・磁場強度において,印加した場合としない場合に有意な変化がなく,本研究で用いた装置で印加できる最大磁場強度の範囲と水溶液の導電率の限界から,氷晶のサイズに影響を与えるほどローレンツ力が強くないことがわかった.水溶液の導電率を今回使用した導電率以上になることは,現実的でないことからローレンツ力も氷晶サイズに影響を与える要因とは考えにくい。 ついで交番磁場による渦電流や電場の印加により発生するジュール発熱が凍結過程に与える影響を調べた.即ち,100〜1MHz,0〜900V/cmの電界を種々の濃度のトレハロース水溶液に印加しつつ,一定の冷却速度(約1℃/min)で冷却しつつ顕微鏡観察をおこなった.氷晶の生成は,電場の有無に限らずほぼ等しい過冷却度で凍結し,大きさ形態にも差はみられなかった.ここまでの結果より,磁場が食品中の氷晶サイズに与える影響は,水溶液の電気・磁気物性だけでは説明できないと判断できた. 最後に氷の再結晶(氷晶の粗大化)に電場が与える影響を調べた.-10℃で7.6mS/cmに調整したトレハロース水溶液を凍結保持しつつ,氷の誘電損失が極大値をもつ周波数(100kHz程度)の電場0〜80V/cmを印加して氷晶の大きさの時間変化を顕微鏡観察により測定した.その結果,電場を印加することで氷晶の粗大化が促進されることがわかった.凍結5分後の氷晶の平均直径は,電場を印加した場合には最大約1.4倍の違いがみられた。これは,氷晶周囲の未凍結の電解質水溶液が加熱されることで,氷晶界面の水分子の易動度が高くなり,再結晶が進行した為と思われる.
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