研究概要 |
ダム貯水池を多く抱える日本の河川水系では,出し平ダムの事例に見られるように,たとえ栄養塩負荷が低い清流でも,森林の新陳代謝にともない発生する植生残滓が深刻な有機汚濁を生ずる場合がある.本研究では,水系の有機物収支におよぼす流域の役割を明らかにするために,特性が非常に異なる森林流域と都市流域を対象として物質負荷流出の現地観測を実施した.その目的は,流域特性と[栄養塩負荷/植生残滓負荷]構成との関連性を検証することにある. 有機汚濁の形態は植生残滓などの粗粒状有機物と微細有機物の割合に応じて異なると仮定し,山地蹄域では植生・地被条件(特に落葉樹林の面積),栄養塩負荷,市街化率など流域属性の異なる小流域を試験地として設定した.受水域は貯水池であり,流域からの植生残浮が池内の有機汚濁におよぼす影響は水質・生態系モデルによって評価された.貯水池モデルでは植生残樺(粗粒状有機物)の池内での分解過程が考慮された. 森林流域と比較するために,植生残滓負荷が極端に少ない都市流域においても流出負荷を観測した. 汚濁流出解析を通して[栄養塩/有機物]負荷の比率と水質汚濁現象との相関性を理論的に再現した. 生態系モデルを用いた貯水池の水質解析では,粗粒状有機物を考慮することによって有機物収支,流域からの植生残滓負荷の影響など定性的特徴は概ね再現されたが,検証に必要なデータとモデルの再現精度は十分とは言えず,さらに観測・解析を継続して知見を蓄積する必要がある.また,山地・都市流域の両方を対象に汚濁流出解析を実施するべきであったが,現時点では都市流域に対する流出解析にとどまっている. 本研究課題はまさに萌芽的であり,最終年度においても多くの課題を残す結果となった.しかし,本研究によって検討すべきテーマや今後の方向性が明確になったことは意義深いと考えている.
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