研究概要 |
燃料電池に使用される含フッ素固体高分子電解質は,ランダムな親水ドメインを有する相分離構造のため,プロトン伝導率は10^<-1>〜10^<-2>Scm^<-1>止まりとなっている。我々は,プロトン酸基を有する高分子,電気絶縁性基体高分子,コンパチビライザーの三元ブレンド系をキャスト製膜する際に外部電場を印加することで,イオン伝導性が向上することを見いだした。前年度は,プロトン酸基を有する高分子にポリアクリル酸を使用し,本年度はポリスチレンスルホン酸を用いる系を研究した。電気絶縁性基体高分子としてフッ素系グラフトポリマーを用いたところ,コンパチビライザーとしてポリビニルブチラールを使用すると電界配向の効果は見られないが,ポリビニルピロリドンを用いると電界の有無により3.5倍の高イオン伝導率を示した。この膜表面のモルフォロジーをレーザ共焦点顕微鏡で観察したところ,10μmからサブミクロンオーダーの凹凸が認められた。この表面に水を滴下すると,表面の形状が平滑化して凹部が隆起することが分かる。類似の現象は,前年ポリアクリル酸系ブレンド膜に対してAFMを用いた観察からも認識されている。すなわちマイクロからナノオーダーのイオン伝導ドメイン相分離構造を有していることが分かる。三元高分子膜の熱特性をDSCにて研究したところ,電界を印加しない単純ブレンド系はポリスチレンスルホン酸とポリビニルピロリドンが相溶した系がフッ素系グラフトポリマーと相分離しているが,外部電界下で製膜するとポリビニルピロリドンがフッ素系グラフトポリマーと相溶し,ポリスチレンスルホン酸と分離したかたちに変化することが分かった。この現象は,電気乳化の一種と考えられる。以上のように,ミクロンオーダーの構造変化と分子レベルの相溶状態の変化が膜のイオン伝導を支配していることが明らかになった。
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