研究概要 |
成形性に富み、低電圧で動作する有機強誘電材料の開発を目指し、1,3-ジオキシ-2,2-ジフルオロプロパン構造を基本構造単位とする一連の有機分子の分子設計と合成を検討した。トリフルオトエタノールを出発原料としてラジカル的炭素-炭素結合形成反応を鍵反応とする2,2-ジフルオロ-1,3-プロパンジオール・モノカルバミン酸エステルの合成法を確立し、強誘電性発現のための構造単位の構築法を確立した。これを基に、1,3-ビス(4,4-ジフルオロ-7-フェニル-2,6-ジオキサヘプチル)ベンゼン、4,4,8,8-テトラフルオロ-1,12-ジフェニル-2,6,10-トリオキサドデカン、1,3,5-トリス(4,4-ジフルオロ-7-フェニル-2,6-ジオキサヘプチル)ベンゼン等の直線的あるいは三叉構造をもつ含フッ素ポリエーテル化合物を合成した。誘電率測定の結果、これらはいずれも比誘電率が30-40で、有機分子としては比較的高い誘電率を示した。しかし、いずれもその比較的高分子量(500以上)に比して低粘度の液体であったため強誘電性発現には至らなかった。強誘電性発現のためには、分子間の相互作用によるネットワーク化により残存分極が必要であると考え、分子間を弱い相互作用で結ぶよう分子設計を行った。双極子相互作用や分子間水素結合を期待して、1,3-ビス(4,4-ジフルオロ-7-[4-ニトロフェニル]-2,6-ジオキサヘプチル)ベンゼンや1,3-ビス(4,4-ジフルオロ-7-[4-アセチルアミノフェニル]-2,6-ジオキサヘプチル)ベンゼンを合成した。これらはやはり高い誘電率を示すが、強い分子間水素結合が存在するアセチルアミノ体では、10-100kHzから誘電率が減少する誘電緩和現象が観察され、分子間運動が制限されたことにより高周波電場振動に分子運動が追随できなくなっていることを示す。このことはこの化合物が強誘電性材料として有望であることを示唆している。
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