研究概要 |
本研究では,造船市場において過度の価格競争を抑制するための方策として,新造船発注の選択権(新造船オプション)を取引する市場制度を国際研究者交流を通して提案した.さらに,実験経済学の方法論を用いて,提案市場制度の有効性を調べた. 特定の造船所で,特定の船舶を,特定の納期で建造することを,定められた期間中に発注できる権利"としての新造船オプションについて, (1)新造船オプションの保有を新造船発注の条件とする, (2)新造船オプションを集中市場でオープンに取引する, という市場制度を提案した。ただし,新造船オプションは船価を直接規定せず,船価は権利行使時までの当事者間の交渉によって決まるものとする.また,オプションの取得には証拠金が必要であるものの,権利行使によって証拠金は船価の一部に充当される. 価格競争力のある造船所が発行する新造船オプションに対しては,新造船オプション市場で競争入札を導入することでプレミアムを付加し,船価の下支えを意図する.証拠金と市場でのプレミアム額との和がオプション価格である.新造船オプションは,早期のうちに取引関係を1対1に限定するものであり,それによって市場の行きすぎた反応を抑制しようとする. 集中市場で取引するために,新造船オプションの均質化/標準化が課題である.そのために,新造船オプションを"特定の造船所で,特定の時期に,特定の期間,特定の設備と労働力とを利用投入することができる権利"と読替えるとともに,標準貨物船換算トン数(CGRT)の概念を導入する. 新造船オプション市場を模擬した市場ゲームを作成し,加害的廉売(ダンピング)のシナリオのもとで実験を行なった結果,提案市場制度について以下の事項を確認した. (a)取引価格の下支え効果があること, (b)買手側の将来の流動性リスクを軽減させること, (c)売手および買手の双方に信頼醸成をもたらすこと. 提案市場制度は,取引価格の変動に対して減衰力のように作用する.
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