研究概要 |
送粉共生系の保全における園芸・緑化植物の代償的利用を検討した. 34種の園芸・緑化植物における送粉動物の種類と訪花頻度を調査したところ,31種(91%)で訪花動物が観察され,人為的に植栽された植物が送粉動物の餌資源として多少なりとも機能していることがわかった.とりわけ,スイカズラ科ハナツクバネウツギ,バラ科リンゴ,ミカン科ウンシュウミカンにおいては,観察された訪花昆虫が10種以上,単位時間当たり総訪花数が70回以上と,送粉者による利用度が比較的高かった.送粉者利用度の高い植物は,日本在来種か外来種かを問わず,単位面積当たりのディスプレイサイズ(総花数)が大きく,花密を分泌・貯蔵する部位が比較的浅い花器構造を有しており,こうした形質に配慮することが,園芸・緑化植物を送粉者の餌資源として活用する上で重要であると考えられた. 一方,対照的な送粉シンドロームを有するサツキとマルバサツキの交雑によって形成された雑種集団をモデルとして,ツツジ類における生殖的隔離の崩壊要因を屋久島において調査した.花器および葉の形態を比較したところ,屋久島内の河川部流域に分布する2集団はサツキ型,海岸部疎林の1集団はマルバサツキ型,その他の海岸部の3集団は雑種型に類別された.これらすべての集団間の遺伝的分化は島外の集団を含めたマルバサツキおよびサツキの種内集団間の遺伝的分化に比べると著しく小さかった.また,朱赤色の花を有する個体が多い集団と淡紫色型の花を有する個体が多い集団の間で送粉昆虫相が概ね二分されたが,花色とは無関係に訪花するコハナバチ類も観察された.これらの事実は,異種集団間の地理的距離が接近すると,ツツジ類の花色の違いによる交配前隔離が容易に崩壊し,浸透交雑が生じることを示唆している.したがって,在来種との間に雑種を形成することができる園芸・緑化植物は,生態系への負のインパクトを回避するような条件付きの利用を検討することが重要と思われた.
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