平成14年度はN-アセチルグルコサミン転移酵素(GnT)遺伝子を糸状菌発現用ベクターに接続し、宿主糸状菌Aspergillus oryzaeを形質転換する段階まで行った。引き続き平成15年度は形質転換体を最少培地で純化し、完全に亜硝酸塩要求性が相補されたクローンを取得した。これらについてGnT遺伝子の両端の塩基配列からなるプライマーを用いてPCRを行い、ゲノムDNA中にGnT遺伝子が挿入された事を確認した。この菌株の細胞を破砕して膜酵素サンプルを調製した。GnTアッセイは以下の様に蛍光ラベルしたマンノオリゴ糖レセプター(7糖)に対するGlcNAcの付加(8糖の生成)を、蛍光検出器を備えたHPLC装置により測定した。 UDP-GlcNAc+Man_5GlcNAc_2-蛍光基→GlcNAcMan_5GlcNAc_2-蛍光基 UDP-GlcNAc、マンノオリゴ糖を含む反応液に膜サンプルを添加し、酵素反応を行わせた後にHPLC分析を行った結果、8糖の位置に蛍光ピークが検出された。即ちマンノオリゴ糖にGlcNAcが転移した事が示され、これより本プロジェクトの目的としたGnT-1酵素発現糸状菌が作成された事が確認された。この段階で当初の研究予定は達成されたが、次の課題として、発現したGnT-1酵素の糸状菌細胞内の局在に関する検討を行った。一般にタンパク質に対する糖鎖修飾は、細胞内の小胞体またはゴルジ体に整列した糖転移酵素群により行われる。ある細胞の糖鎖修飾に関する機能を改変しようとする場合、導入された酵素が細胞内の意図するオルガネラに局在している事は重要である。今回の実験に用いたGnT遺伝子は動物細胞由来であり、糸状菌により発現させた酵素の局在性を検討した報告例は無い。そこでGnT遺伝子にクラゲ蛍光タンパク質であるGFP遺伝子を接続し、これを糸状菌用ベクターに挿入してA. oryzaeの形質転換を行った。上述した様にクローンの純化を行い、イムノブロッティング等にてタンパク質発現の確認を行い、目的融合タンパク質を発現するクローンを取得した。この菌株について蛍光顕微鏡解析を行った結果、期待通り融合酵素はオルガネラ(ゴルジ体)に局在する事が示された。萌芽研究としての本プロジェクトは全ての計画を消化したので、次は本研究にて作成された組み換え体糸状菌を用いた有用糖タンパク質の生産に取組む予定である。
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