研究概要 |
自活性土壌線虫Caenorhabditis elegansには休眠現象が知られており,生育密度の増加によるフェロモン濃度の上昇,食餌の枯渇に応答して生育を一時的に停止し,耐性幼虫を形成する。この耐性幼虫形成に関してはTGF-β様ペプチドおよびインスリン様ペプチドを起点とした2つの情報伝達経路が知られている。しかしながら,休眠誘起の直接要因であるフェロモンの正体は未だ明らかにされていない。そこで本研究では,"フェロモン合成不全突然変異線虫"を使用することでバイオアッセイの大幅な改善を図り,ごく微量に存在すると考えられる休眠誘導フェロモンの単離を試みるごとにした。 【バイオアッセイ系の改善】培地濃度、飼育温度、フェロモン合成不全株daf-22の有効性を検討した。その結果、培地濃度は通常の飼育培地の1/4濃度が最適であること(餌シグナルの軽減)、飼育温度は25℃が最適であること(耐性幼虫形成に対する温度要因の関与)、使用する株はdaf-22が極めて有効であること(バックグラウンドの軽減)が明らかとなった。 【フェロモンの化学的性質】まず,従来法に従って培養濾液を煮詰め、エタノールで抽出・乾固することによりフェロモン粗抽出物を得た。これをプロテイナーゼK処理し、フェロモン活性が残存するかどうかを検討した。その結果、処理後も同様のフェロモンが認められたことから、フェロモンは非タンパク性の物質であることが判明した。次いで、フェロモンの一次精製法を検討したところ、有機溶媒には分配されないものの、活性炭に吸着することが判明した。さらに、中性条件下でイオン交換樹脂への吸着を検討したところ、QMAに吸着したことから、本物質は酸性非タンパク性物質であると考えられた。現在、ゲル濾過による精製を試みている。
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