研究概要 |
本来生物が生産しない化合物を生物変換で合成する研究は,生理活性物質生産において幾つか知られている。しかしこのような反応は,目的物が決まった上で選抜されたものであり,ランダムにバイオコンバージョンを行い,その結果得られる化合物群をラィブラリーとする研究はほとんど行われていない。現在の医薬などの生理活性物質探索では,ハイスループットスクリーニング(HTS)が全盛であり,そのための化合物ライブラリーの構築が不可欠とされている。そのためにコンビナトリアル合成が行われているが,これもあくまで構造予測のうえでのライブラリー構築である。そこで,本研究では,2種類の生物の持つ二次代謝産物生産能を組み合わせて,1種の生物では生産不可能な化合物を合成する『コンビナトリアルバイオコンバージョン』という手法の基礎的な検討を行った。我々は既に,糸状菌Aspergillus ustusが生産する細胞分裂阻害物質phenylahistinを放線菌Streptomyces albulusが有している環状ジペプチド脱水素酵素系で処理すると,出発物質のさらに1000倍以上も強力な活性を有する新規化合物dehydrophenylahistinが生成することを明らかにしており,昨年度は,この反応をより効率よく行う技術開発を試み,2種の微生物を寒天培地上で培養し,途中で微生物を移し替える培養法により,目的物質の生産が可能となった。本年度は寒天培養より様々な利点を有する液体培養による方法の確立を試みた。液体振とう培養や,液体静置培養ではPhenylahistinの生産はほとんど見られなかったこと,菌の移し替えを考えると膜状で菌体を生育させるのが望ましいことから,岡山大学工学部中西教授が考案された膜面液体培養による生産を試みたところ,寒天培養より生産性の高い条件が確立できた。以上のことから,寒天培養あるいは膜面液体培養で二種の微生物を培養し,培養途中にそれらを移し替える二段階醗酵により,新規の化合物が生産できると期待される。
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