研究概要 |
イソプレンがモノテルペン放出種におよぼす影響として,以下のメカニズムが候補として考えられる. 1 モノテルペンの代謝を抑制し,葉内のモノテルペン含有量を低下させることで抵抗力を弱める. 2 イソプレンが表皮のガス透過性を高め(Fall,1999),モノテルペンの放出を促進することで,葉内のモノテルペン含有量を低下させ,抵抗力を弱める. 3 光合成や気孔開度を低下させ,モノテルペンの基質の生産量を低下させる. 4 モノテルペン放出種の,他の物理的,化学的特性を変化させる. 本研究の目的は,上記の点についてイソプレンの暴露がモノテルペン放出種におよぼす影響を検討することである. 植物材料には,モノテルペンを放出するレモンバーム,サントリナを用いた.また,比較のためイソプレンを放出するエニシダを用いた.これら植物は,30日ほど生育させた実生苗あるいは挿し木苗であった.暴露するイソプレン濃度は,1ppmvと10ppmvとした.イソプレン原液を長さ50cmのガラス管に10cmほど入れ,拡散希釈されるイソプレンガスをさらに希釈して,上記濃度を実現した.原液は約10日ごとに補充した.また、対照区の植物用に活性炭を通したイソプレンフリーの空気を作成した.暴露期間中,ガスクロマトグラフ(GC-FID)を用いて目的濃度が達成されていることを確認した。暴露実験を20日間継続した. 実験の結果は以下のようになった. (1)レモンバーム:生体重および乾燥重は,暴露した2区で対象区より有意に高かった(p<0.05).葉数,茎径においても,同様であった. (2)サントリナ:茎径は暴露した2区で対象区より有意に高かった(p<0,05).他の処理区には有意差はなかった. (3)エニシダ:茎径は暴露した2区で対象区より有意に高かった(p<0.05).他の処理区には有意差はなかった. 以上の結果から,今回の暴露実験では,イソプレンの暴露によって,モノテルペン放出種の生育が抑制される現象は認められなかった.むしろイソプレン暴露で茎が太くなる傾向があった.仮説を実証することはできなかったが,実験期間が短く,用いた植物が樹木でなくハーブ植物であったことなど問題点も残ることから,今後も実験を継続していきたい.また,イソプレンが何らかの作用をしている点は興味深く,更なる検討を要する.
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