研究概要 |
鳥類や哺乳類では,体幹が胸部と腹部(腰部)とに分化している.これは,骨格系では顕著であり,胸部にのみ肋骨が独立した骨として形成される.肋骨や椎骨の原基は体節中胚葉であるが,そこには,少なくとも形態的には頭尾軸に沿った違いは見いだせない.一方,筋系についても,胸部は明らかな分節性をなすのに対し,腹部でのそれは明瞭でない.この形態的差異は骨格系の際の二次的結果とも考えられるが,肋骨の発生には筋系の発生が影響を及ぼしている可能性も窺われる.本研究では,個体発生における筋系の部域差を明らかにする目的で,ニワトリ胚の腹壁筋の発生機構を調べた. 昨年度までに,腹壁筋の大部分はひとつの体節(最上位の腰部体節)に由来することがわかった.それより下位の体節は,肋骨を作らないばかりでなく,腹壁筋をも作らないのである.一方,これらの体節由来の細胞は下肢の筋を形成する.腰部体節が腹壁筋を作るか,下肢筋を作るかは,一見,相補的に見える. 本来下肢筋を形成する体節を,腹壁筋を形成する部位(第27体節位)に移植すると,腹壁筋を形成するようになる.下肢の形成は,腹壁筋形成を阻害するのかもしれない.このことを明らかにするために,ニワトリ胚胸部にウズラ胚より単離した腰部側板中胚葉を移植して過剰肢を形成させ,この過剰肢が胸部体節由来細胞を下肢筋に変換させるかどうかを調べた.結果は,胸部体壁のうち,腹壁と同じ範疇に分類される肋骨胸骨部とそれに付随する肋間筋が消失し,過剰肢では宿主の細胞が筋を形成していることがわかったこのことは,下肢の存在が,本来体壁の筋を形成するはずの胸部体節細胞の運命を下肢の筋を構成するようにその運命を転換させたことを示唆する.一方,肋骨椎骨部の形成には異常が見られなかった. 以上の結果は,胸部と腹部の分化には肋骨椎骨部の変化とともに,下肢の形成が大きな役割を果たしていることを示唆している.
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