研究概要 |
1970年代初頭に初めて症例が報告されたNasu-Hakola病は,多発性の病的骨折,および性格変化などの統合失調症に似た精神神経症状ののち若年性痴呆を必発して死に至る,予後不良の劣性遺伝病である.フィンランドのグループの地道な家系調査とゲノムスクリーニングの結果,2000年に至ってNasu-Hakola病の原因が,免疫系において見い出されていた活性化シグナル伝達を担う膜アダプター分子、DNAX activating protein(DAP)12をコードする遺伝子の欠損であることが同定された.我々はNasu-Hakola病の発症機序を解明する目的でDAP12欠損マウスを作製し,骨および中枢神経系におけるDAP12の役割を検討したところ,このマウスは破骨細胞の発達障害ならびにオリゴデンドロサイトの視床領域での発達障害を示すことを見いだした.Nasu-Hakola病の原因として,従来から脂質代謝の異常,あるいは血管壁の変化によって惹起された大脳白質の慢性循環障害とする説など,確定されていなかったが,DAP12欠損マウスでは脂質代謝異常,ならびに大脳血管の内皮細胞に異常は見いだせなかった.とりわけヒトで若年性の痴呆に至る過程は全く不明であり,DAP12欠損マウスでは2年齢の老化マウスでさえ明白な行動異常は観察されないし、神経細胞の顕著な減少も見られない.DAP12が如何なるレセプターと会合し,その生理的リガンドは何なのか.さらにそのリガンドの脳内分布はどのようになっているのか,などの基本的な知見を蓄積することがヒトのNasu-Hakola病とDAP12欠損マウスとの間に存在する分子レベルでの相違の同定につがなり,これがいずれヒトの精神分裂病や若年性痴呆のひとつのメカニズムの解明につながることを目指したい.本年度は特に骨疾患についての更なる解析を行い,DAP12とともにFcRγも骨形成に関与していることを突き止め,これらアダプター分子群がイムノグロブリン様受容体分子群と会合し,RANKLからのシグナルとともに破骨細胞形成に不可欠であることを解明した.
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