研究概要 |
統合失調症は罹患期間が長くなると陰性症状が目立ってくる。それは疾患自体が進行したためと考えられているが、年余に渡って投与される薬物の影響がまったくないとは考えられない。近年、マイクロアレーを中心とした網羅的遺伝子発現解析が利用可能となり、カスケードを形成している分子群の変化が一網打尽に観察できるようになった。今回、抗精神病薬で神経細胞の変性や生存に関連している遺伝子の発現変化を調べることにより抗精神病薬による神経障害の有無を検討し、慢性期に適した薬物療法を提案しようと計画した。 方法:8-9週齢の雄性ddYマウスに14日間連日、1日1回腹腔内に薬物を投与した。使用した抗精神病薬はhaloperidol(2mg/kg)である。また、haloperidolは一般に錐体外路性副作用を予防するために抗コリン薬と併用されるのでbiperiden併用投与群も設定した。マウスは薬物最終投与の、48-53時間後に断頭し、陰性症状と関連があると言われている背外側前頭前野からRNAを抽出した。Katoの方法に従い約500種類の遺伝子を600種類のプライマーを用いてアダプター付加競合PCRを行い発現遺伝子量を測定した。 結果: haloperidol投与群でMAP3K4mRNAが上昇した。biperiden投与群でEDG1mRNAが減少した。haloperidolとbiperiden併用群ではcofilin1,EDG1,GSTzeta1,HMGB1,prion protein,UBE2E3,synaptotagmin IV,UCHX4,UCHL5,VCPのmRNAが減少した。薬物投与によりアポトーシス関連分子の発現はなかった。 考察: haloperidol投与でMAP3K4の発現が上昇したが、それはストレスにより上昇する分子である。培養細胞ではhaloperidolによりアポトーシスが誘発されるぐそのときMAP3K4の下流のMAPK8-14が活性化する。しかし、本研究ではアポトーシス誘導遺伝子は発現せずMAPK8-14の発現も変化していなかったので、in vivoではhaloperidolは神経にストレスを及ぼすが神経細胞死までは誘発しないと考えられた。
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