研究概要 |
選択的注意による感覚情報の優先処理と抑制について,追加実験で症例数を24例とし,知見の再現性と確実性を実証した。詳細は論文(Clin Neurophysiol 117,in press)に述べたが、その概略を記す。実験の眼目は,物理的に等質な二つの感覚入力が,注意によって目的情報と雑音入力とにふるい分けられ,そのフィルタ機能が脳活動の実体に現れることの実証である。一次体性感覚野の手指受容領域をモデルとし,示指と中指からの同時感覚入力に対する脳活動を磁界計測した。我々の先行実験(Neuroreport 13,2002)との比較を行い,一方の指に注意を向けることが,その指だけが刺激されたかのように受容野の活動を調整することを見出した。この背景には,注意指に対する受容野の反応強化と同時に,皮質間連絡による隣接受容野の抑制があると考えられた。この神経機構は脳の機能的可塑性の基盤でもあり,注意による情報処理の制御は,脳の短期の可塑的変化で成されると考えられた。注意による受容野の反応強化は,神経細胞群の発火頻度の増加と,それに伴う受容野の一過性の拡張が成因であると考えられる。これは,刺激の強度や頻度を高めた場合に起こる反応でもあり,注意の効果は刺激強度のemulationと考えられる。その逆説的な検証として,我々は,注意の効果が強い刺激の下ではマスクされることを実証した。この論文は,現在投稿中である。 注意の脳内制御について,前頭葉の関与を検討する予備実験を行なった。触覚振動刺激の周波数判別を行なったが,同時に,それを外乱する視覚刺激を与えた。外乱刺激の無視に関連した前頭葉活動を認めたが,その信号源の推定精度には,二次体性感覚野の賦活が影響し,十分な信頼性が得られていない。振動周波数の処理については,二次体性感覚野,さらに聴覚領域の関与を新たに見出した(日本生体磁気学会誌17,2004)。
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