研究概要 |
【はじめに】 外傷などにより神経の一部が欠損する場合に対する人工神経の研究は,1979年のルンドボルグの報告以来シリコンチューブをはじめ様々な実験が報告されているが,長距離の神経再生のためには何らかの、軸索の伸長を促進する因子が必要であることが分かってきている.今回我々は神経系の様々な細胞に分化可能な神経前駆細胞を用いた人工神経の開発を試みた. 【対象および方法】 神経前駆細胞は胎生15日のラットの海馬より採取しbFGFを含む培地にて浮遊培養した.次に8週齢のラットの左坐骨神経を切断し断端間を15mm開けてシリコンチューブで架橋した.チューブ内に2週間の培養の後BrdUにて標識した約10万個の神経前駆細胞をコラーゲンゲル内に包埋し充填した群と,対照群としてコラーゲンゲルのみを充填したモデルを作製した. 【結果】 肉眼的に神経の連続性がチューブ内で認められたものは対照群では6週では0匹,10週では2匹のみに認めた.一方細胞移植群では6週で4匹,10週では7匹に認められた.再生組織に対する抗BrdU抗体と抗s100抗体p75を用いた二重免疫染色により移植した神経前駆細胞の一部は再生神経中でシュワン細胞に分化したと考えられた. 【考察】 以上より神経前駆細胞含有人工神経は,末梢神経欠損部位に於いて末梢神経再生を促進することが明らかとなった.今回我々がまず用いた神経前駆細胞は優れた増殖能力があり,かつ広範な神経系の細胞に分化可能である.本研究の結果,神経前駆細胞を用いた人工神経が神経欠損に対する有効な治療法となりうる可能性が示唆された.
|