研究概要 |
陸上脊椎動物の骨組織は、骨芽細胞による骨形成と、破骨細胞による骨吸収のカップリングにより常にリモデリングを行っており、力学的ストレスに適応した形態を形成、維持している。最近、われわれはNotchシグナルによって骨芽細胞に分化させたヒト間葉系幹細胞が、周期的パターンを形成する事を見い出した(Tezuka K.J.Bone Miner.Res.17,231-239,2002)。われわれは、骨に存在する細胞が、どの様にして外的ストレスに適応した骨微細形態を形成するかを理解するために、複雑系モデルのひとつである反応拡散系を用いて、仮想骨リモデリングモデル「iBone」を作製した。iBoneは、二次元および三次元の仮想骨モデルにおいて、有限要素法計算によって得られた局所の応力値を、モデル内表面に展開した反応拡散微分方程式に反映させる、新しい骨リモデリングシミュレーションである。 シミュレーションの妥当性を検討するために、3次元でのシミュレーションのためのPCクラスタを構築し、ハードウエアとソフトウエアの最適化を行った。内部に嚢胞を持つ患者の大腿骨及び下顎骨のCTデータからボクセルモデル作製し、仮想力学条件における内部形状をiBoneを用いて計算したところ、実際の骨内部構造との一致が見られた。しかし、局所的に一致しない部分も存在し、筋付着部位や筋力の設定、歯や軟組織のモデル化など、新しい課題も生じた。 さらに、日本人ヒト骨髄間葉系細胞の培養も行った。上顎骨の手術のために腸骨から採取された骨髄を培養皿に播種し、2週間の培養後、付着して増殖する細胞を得た。この細胞を多孔性リン酸カルシウム担体上で培養し、還流培養装置を作製してヒト血液細胞と共培養した。残念ながら造血細胞の増殖は観察されなかったが、今後、IL-3,G-CSF,VEGF,SCFなどの造血因子を間葉系細胞で発現させ、血液細胞の増殖を補助できないか検討を加える。また、軟骨細胞分化に対する、Notchの抑制効果についての研究をまとめ、Journal of Bone and Mineral Metabolismに発表した。
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