研究概要 |
嚥下障害のリハビリテーションの効果を示す上位中枢の役割を明らかにするために,その基礎となる研究を行った。嚥下運動は従来法の加算平均ではタイムロックが悪いので,電流源推定は推定できない事が多く脳活動を観察することは困難である。その上,嚥下障害者は何十回も嚥下動作を繰り返すことが不可能である。そこで,加算回数が少なく,タイムロックが悪くても推定可能である背景脳活動の事象関連脳磁場について,正常人について研究を行った。 対象は神経筋領域疾患の既往ならびにその症状を認めない成人12人(右利き9人,左利き3人;26〜52歳)とした。光刺激により1ml命令嚥下を約50回行い,各嚥下において全頭型204chの脳磁計を用いて,脳磁波形と頤下,左側上頸部,左側頬部筋電図を同時収集した。前年度で開発したソフトを改良して,各嚥下の頤下筋電図の中から類似した嚥下パターンを示す嚥下を選択し,その頤下筋電図の立ち上がり時をトリガとし,加算平均を行った。脳磁計の各センサーで,Band-pass filterを用いて2Hzずつ,0-40HzのTime frequency chartを作製した。脱同期および同期の基準は嚥下開始前-3500ms〜-1000msの各センサーの各周波数の平均とし,事象関連脳磁場を作成した。また,その脳活動を観察するために,各センサーの信号を被検者それぞれの脳表に投射するソフトを作成した。脳表における信号の変化より,嚥下開始前-1000msから0msにおける各周波数における事象関連磁場の背景脳活動を調べた。 嚥下運動開始前は,β帯域においては,全症例において事象関連同期を認めなかった。事象関連脱同期は中心前回付近と頭頂小葉付近において,右側が左側より広範囲で認めた症例は,それぞれ右利き(9人)では7人,7人,左利き(3人)は2人,3人であった。逆に左側が右側より広範囲で認めた症例はなかった。 以上より嚥下運動の背景脳活動に左右差がある可能性が示唆され,過去のPETやfMRIを用いた研究の報告を参考とすると,頭頂小葉付近の脱同期は嚥下の運動のコントロールに関与している可能性が示唆された。また,この事象関連脳磁場の測定は嚥下障害の高次機能を判定するのに有効である可能性が示唆された。
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