研究概要 |
ヒトの最も進化した徴候は喉頭の下降であり,このために関節包が弛緩し頸椎の垂直化や下顎底の開大などとともに,顎関節症の発生原因として,過剰開口が誘発され,病態発生に関与する.これに伴う頭頚部の各種の随伴症状も問題化を呈することになった。この過剰開口時に生じる顔貌の異常変化を正貌および側貌から映像学的に分析し,治療学的資料を作成すべく,データ収集を行った. 対象は,過剰開口癖を有する健常成人,顎関節症患者と悪性や良性腫瘍のために下顎の区域切除や半側切除手術を行った患者などである。これらを健常者群,即時や二次的再建群,下顎区域切除後の非再建群と3群に分類し,側頭筋前部,中部,および後部の各筋束群と咬筋のEMGを測定した.直径6mmの銀塩化銀表面電極を筋線維走行に沿って筋腹中央に電極間距離を20mmとして貼布し,周波数5000Hzで双極誘導し,筋電図解析ソフトAcqKnowledgeにより解析した.前方と側方には,2台のビデオカメラを設置し,毎秒60フレームの速度でコンピューターに取り込み,運動解析ソフトDynas 3D/Gにより3次元的に顎運動を解析し,顎関節症患者の過剰開口時に生じる顔貌変化や顎の偏位,またこれに伴う側頭筋と咬筋への影響を検討した. この結果,過剰開口を行っている患者の顔貌の横幅は,平均4.5mm巾,また最大11mm巾の顔面幅を増加させると同時に,顔全体が菱形を呈した.また,同時に測定したEMGによって,この過剰開口時には,側頭筋や咬筋は異常電位の発生を生じた.区域切除後の再建の有無や健常者群と比較すると,非再建例でのEMGは,咬筋の切除により,咬筋筋電位は減少し,側頭筋の後部筋束は増強した.これは,筋突起切除術併用の関係から側頭筋後部筋束の切離が不完全で残存している可能性や,あるいは側頭筋電位の代償性増強による結果と考えられた.これら結果を上記の各種患者の生理的開口訓練時にfeed backさせ応用すると,有用であることが判明した.
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