研究概要 |
申請者らは,前年度の研究で,液胞型プロトンATPaseの特異的阻害剤であるコンカナマイシンAを用いて新たな癌の治療法の開発を行ってきた.これまでに,in vitroおよびin vivoの実験系でエレクトロポレーターを用いて抗癌作用を発現について検討した.その結果,ヒト顎下腺管癌細胞やヒト扁平上皮癌細胞に対して強い致死活性が確認された.しかしながら,癌細胞特異性が低く,正常細胞への為害性が認められたことから,これをどのように減弱させるかが今後の問題として残された. そこで,本年度の研究では,細菌が産生する毒素である細胞膨化毒素(cytolethal distending toxin ; CDT)に着目して,ヒト由来の顎下腺管癌細胞株におよぼす作用について検討した.CDTは,大腸菌をはじめとしてさまざまな病原性細菌が産生する毒素であることが分かっているが,今回は,歯科領域で研究が進んでいる若年性歯周炎の原因菌であるActinobacillus actinomycetemcomitansが産生するCDTとそれを担う遺伝子を用いて実験を行った.その結果,in vitroの実験系で,CDTタンパクならびにそれを担うCDT遺伝子をエレクトロポレーターで,ヒト顎下腺管癌細胞株に導入したところ,著しい細胞致死活性が認められた.フローサイトメーターで解析したところ,CDTによって誘導される細胞死はアポトーシスであることが確認された.さらに,アポトーシス発現に先立ち,G2期における細胞周期の停止が誘導されることが明らかとなった.ここまでの成果は,今年度,論文としてまとめ投稿しているが,担癌マウスに対する効果を確認するまでには至らず,今後の課題として残された.
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