研究概要 |
本年度は以下の項目について比較検討を行った. 1.MR撮像に対して同意の得られた舌・口底切除症例4例において,安静時および発音時のMR画像および音響分析を比較検討した.その結果,舌半側切除後前腕皮弁で再建した症例において,声道形態,特に舌後方の形態の違いにより軟口蓋音および母音/a/の発話明瞭度に大きな差が現れる事が示唆された. 2.上顎劣成長を伴った骨格性下顎前突症に対し,上顎骨骨延長術と下顎枝矢状分割術を施行し,治療前後の構音機能,鼻咽腔閉鎖機能を比較検討を行った結果,構音機能,摩擦音のサウンドスペクトル上での正常化,鼻咽腔閉鎖機能の適応性変化が認められた. 3.口蓋に口蓋隆起を認め,発音困難を自覚症状とした症例に対し,口蓋隆起切除術を施行し,治療前後のパラトグラム,舌造影側方部X線規格写真,サウンドスペクトログラムを比較した結果,自覚的にも他覚的にも構音障害が改善することがしめされた. 4.口蓋裂患者の開鼻声があると診断された患児32名と健常児32名の母音/i/の持続音で、ディジタルバンドパスフィルターを用いて1/3オクターブ分析した。結果,口蓋裂児の母音/i/の開鼻声のスペクトルの特徴はF1の帯域のレベルの上昇と、F1・F2間の帯域のレベルの上昇およびF2・F3間のレベルの下降であることが明らかとなった。特にF1・F2間の帯域のレベルの上昇は個人差の影響を受けにくい開鼻声の特徴と考えられ、この音響的特徴を用いて開鼻声を定量的に評価できることが示唆された。 以上の結果,これらの測定方法が治療前後の定量的な評価として有用であることが示唆された.今後,症例を増やし,口腔形態と構音障害の関連性について検討を重ねる予定である.
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