研究概要 |
埋蔵ガラス質文化財の変質について,中性子ビームを用いた即発γ線分析、中性子放射化分析、ラジオアイソトープ励起蛍光X線分析などの核的手法を適用して,変質に伴う物質移動現象の状況の把握と変質機構の解明に関する研究を実施した.わが国の弥生時代、古墳時代、平安時代、江戸時代の遺構で出土したガラス製品の分析に適用して、化学組成や着色剤、風化による変質について検討した。また、これらの核的手法の適用の範囲並びに応用の可能性についても考察を加えた。特に、資料を完全に非破壊的に分析できる即発γ線分析のこの領域への応用の可能性については、詳細に検討を加えた。 ガラスの化学組成を決定する主成分元素であるNa,K,Ca,Siの定量結果について、即発γ線分析、放射化分析、蛍光X線分析の値を相互比較した。標準物質も含めた分析結果から、即発γ線分析がこの系について優れた定量手法であることが示された。着色剤として使用されたCuやFeの定量結果も主成分元素の場合と同様に良好であった。この他、即発γ線分析で特に高感度の元素としてBなどの微量元素があり、産地や技法の解明に有用な指標元素の定量手法としても有効であることが示された。さらに,平安時代の遺構から出土したガラス資料については、変質により風化生成物に富むとみられる部分と元のガラス部分との分析値を比較して元素の出入りを調べた.含有量の増減から、風化による元素の溶出が起こるとともに、埋蔵中の二次鉱物の生成や再結晶化で、土壌からガラス試料に一部の元素は移行していくことが示された。誘導放射能の生成が無視できること、中性子の自己吸収や散乱の度合いが小さいこと、γ線エネルギーが高いものがあることなどから、即発γ線分析は考古資料や美術品の分析に信頼できる新手法であることを示す結果が得られた。
|