研究概要 |
1.アメリカ合衆国において,全米障害者教育法(IDEA)の障害カテゴリーに獲得性脳損傷(TBI)が加えられたのとほぼ同時期(1990年前後)に,我が国においても獲得性脳損傷児への教育的支援についての検討の必要性が指摘されていた.当時から現在までの諸研究を概観し,我が国においては残念ながら十分な検討が行われてこなかったこと,現段階ではとりわけ医療機関との連携体制を構築する必要があること等について,雑誌論文としてまとめた. 2.ただし,医療機関側からすれば,教育現場との連携は,本来の業務から離れた全くの付加的なサービスであり,両者の連携を確立するためには財政的,人的な基盤を整備していく必要がある.この点に関しては,発達障害者支援法の施行に伴う,各自治体の取り組みに着目していく必要があろう. 3.脳腫瘍摘出手術後に重篤な記憶障害を呈した生徒への教育的支援について検討を行った.従来,記憶障害への支援は,失われた記憶そのものを補うことに主眼が置かれてきたが,活動のための1つのリソースとして記憶を捉えなおす必要があること(記憶そのものを補うというよりも,様々なリソースを使いこなすための支援が必要であること),具体的な支援の手立て(補助手段)を考えるにあたっては,その手段を用いることの本人にとっての必要性・必然性,その手段の利用に伴う認知的負荷を軽減すること等を考慮する必要があることを明らかにした. 4.小学生時に罹患した脳炎の後遺症により長期にわたる重症心身障害状態を呈した後に,劇的な回復を示した事例の回復経過について検討した.回復の過程で,記憶や意思決定,社会適応といった側面に問題を示したが,これらの側面に対する支援については,現在,整理・分析を進めているところである.
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