研究概要 |
合成洗剤の普及に伴い,1960年代より河川の界面活性剤による汚染が顕在化し,多くの社会的関心を集めてきた。一方,人間活動に伴う生物多様性の減少も国民的な関心を呼んでいるが,河川は水生植物の減少が問題となっている生態系であり,その原因究明と保全が急務となっている。しかし,この水生植物の減少を界面活性剤汚染と関連づける研究は行われていない。そこで本研究は,水生植物種子の水散布に対する界面活性剤の影響を絶滅危惧種と普通種間で比較し,絶滅危惧植物種の種子散布が顕著に界面活性剤の影響を受けるかどうかを検証する。 本年度は,茨城県の小貝川流域に分布する絶滅危惧植物タコノアシの2集団(石下町産,下館市産)の種子を採取し,純水と1mg/Lの界面活性剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム;LAS)溶液を用いて種子沈水試験を行った。また,2004年5月18日,9月3日,11月17日,2005年1月24日に小貝川養蚕橋地点で採取した表層水に対して同様な沈水試験を行うと同時に,その表面張力を測定し界面活性を評価した。 下館市産タコノアシの種子ではLAS溶液の沈水率が純水より有意に高かったが,石下町産の種子では界面活性剤の有意な効果は認められなかった。また,小貝川表層水を用いた試験では,2004年9月に採取した河川水におけるタコノアシの種子沈水率は純水と同等だったが,同年5月,11月,翌年1月に採取した河川水のそれは純水より有意に高かった。しかし,それらの河川水の界面活性はいずれも検出限界(0.5mgLAS/L)未満であった。 これらの結果は,(1)夏期以外の小貝川河川水はタコノアシの種子散布を阻害する可能性が高いこと,(2)小貝川における種子浮遊性の阻害物質は陰イオシ界面活性剤以外の物質である可能性が高いことを示唆する。
|