研究概要 |
我々が発見した神経特異的新規遺伝子BRINPファミリーは,交感神経細胞の分化過程でTrkCと共に誘導されるBRINP1とこれに類似する2種類のタンパク質からなる.いずれのBRINPも細胞増殖抑制能を有する.さらに神経活動の昂進によってもBRINP1の発現が誘導されるため,神経回路形成や脳の高次機能における生理的役割が推定される.本研究の目的は,BRINPファミリーの生理機能を解明することと種々の病態における役割を解明することである.本年度は,BRINP1およびTrkC遺伝子の転写調節機構に注目して研究し,以下の成果を得た: 1)BRINP1およびTrkC遺伝子のプロモーター活性を解析したところ,NRSF (Neuron restrictive silencing factor)が結合して非神経細胞特異的に発現を抑制する配列NRSE (Neuron restrictive silencing element)が,BRINP1とTrkC双方の発現調節に寄与していることを明らかにした.さらにBRINP1やTrkCと同様にBMP2/RAで発現が誘導されるSynaptophysin遺伝子もNRSEを有すること等から,BMP2/RAによる交感神経細胞の分化にはNRSEが関与している可能性が見いだされた. 2)悪性度の高い脳腫瘍の1種である髄芽種より得られたDaoy細胞において,この細胞の腫瘍化の重要な因子であるNRSFの異常な活性がBRINP1の発現を抑制していることを明らかにした.これらの結果より,髄芽腫におけるNRSFの異常な活性がBRINP1の発現抑制を引き起こし,細胞周期抑制が解除されて腫瘍化が起こる可能性を示唆した. 3)交感神経節の発達過程における遺伝子発現を解析したところ,NRSFの機能を阻害するNRSFのスプライスバリアント,REST4の発現パターンとBRINP1,TrkCの発現パターンは相関性が高かった.初代培養下の交感神経細胞において,BMP2とRAはREST4の発現を強く誘導することを明らかにした.これらの結果より交感神経の初期分化においては,BMP2とRAが,REST4を誘導してNRSFの機能を阻害することにより神経特異的遺伝子の発現を誘導することが明らかになった.
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