研究概要 |
Xe、CsおよびIのK吸収端は通常のタンパク質の構造解析で使用されるX線(12.4keV)よりも非常に高いエネルギー域(35keV付近)にあり,これまでMAD法による位相決定には利用することは難しかった.これらの原子と高エネルギーX線を組み合わせたMAD法は,新規タンパク質の構造を大量かつ迅速に決定する方法として有望である.本研究では構造既知のタンパク質の結晶(リポタンパク質輸送に関わるLolA,LolB,ニワトリ卵白リゾチーム)を用い,I,XeおよびCsを異常散乱原子として用いたMAD法による位相決定を行い,タンパク質の構造解析をする上での問題点と解決策を検討した.LolAとリゾチームのXe誘導体は結晶にXeを加圧後液体エタンで凍結し作成した.Cs,I誘導体は共結晶法で作成した.リゾチームとLolAでは,CsやIの存在による結晶形の変化はなかったが,LolBのI誘導体では空間群が変化した.回折データ収集はSPring-8のビームラインBL41XUで行った.XAFSスペクトルをもとに3波長で回折データを収集した.35keV付近でのX線強度の減少とCCD検出器の感度低下により,12.4keVでの場合と比べ250倍の露光時間が必要であった.SS結合を持つHEWLの場合には長時間の露光の影響によるX線損傷が見られた.しかしリモートデータを強度が比較的強い23keVで測定することで全体の露光時間を短くでき,データ間のスケーリングへの影響をなくした.また,コンプトン散乱によるバックグランドの増加がみられたが,解析に用いることのできる質のデータを収集できた.解析の結果,リゾチームのXe,I誘導体,LolBのI誘導体の場合に,妥当なMAD法での位相決定を行うことで,分子モデルが構築可能な電子密度を得ることができ,高エネルギーX線を用いる位相決定が有効であることを示すことができた.
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