研究概要 |
チトクロムP450は炭化水素の特定部位を水酸化する酵素で,その温和な反応条件と反応位置の特異性から酵素化学的だけではなく,実用的,工業的にもその応用が注目されている.この酵素の水酸化反応においての解明するべき点の一つは,分子状酸素の活性化に必要な電子の供給機構であり,この電子伝達機構が解明され,その人工的制御が可能になればこの酵素の応用範囲が大きく広がることが期待される.本研究課題ではこのチトクロムP450における電子伝達機構の解明とその制御を目指して,NMRとペプチド鎖の同位体置換を組み合わせることで,代表的なチトクロムP450であるd-カンファーを基質とする緑膿菌のチトクロムP450(P450cam)と,その電子供与体であるプチダレドキシン(Pd)の電子伝達相互部位の決定,およびその電子伝達過程の制御機構について検討を行った.本研究で得られた主な結果は以下のとおりである. 1.P450camのNMRスペクトルを詳細に検討し,基質であるd-カンファーやヘム近傍に位置するスレオニン252に由来するNMRシグナルの帰属に成功した. 2.今回帰属したNMRシグナルを用いて電子供与体であるPdの結合によるP450camのヘム近傍の構造変化を検討し,Pd結合によりヘム面が傾き,ヘム鉄とd-カンファーとの距離が短くなることを見出した.このことは,ヘム鉄上で生成する活性酸素を効率的にd-カンファーに転移させる上で有利であると考えられた. 3.電子伝達相互作用部位と想定される領域を含むP450camのアミノ酸配列が無細胞系でも合成できることを示し,セグメント特異的同位体ラベルがP450camでも可能であると考えられた.しかし,実際のセグメント特異的同位体ラベルP450camの作製のためには,この配列の収率は低く,更なる反応条件の検討が必要であった.
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