研究概要 |
コオロギをショウジョウバエとは異なる昆虫のモデルとして研究を行なっている。コオロギをモデル昆虫として確立するためには,遺伝子操作技術を確立する必要がある。コオロギが成虫になるまで2ヶ月間を必要とし,次世代でトランスジェニックコオロギを得る方法は,時間がかかり,しかも,非常に効率が悪い。そこで,精子を用いたトランスジェニックコオロギを作製する方法を開発することにした。しかし,生きた精子の単離,人工受精ともカイコの方法などを参考に実験したが,成功しなかった。しかし,未受精卵を低張溶液で処理すると,卵が活性化することがわかった。一方,この研究の途中で,メスのコオロギに二重鎖RNAを注入すると,産卵する卵にRNA干渉が生じる現象を発見した。この現象を垂直伝播RNAiと名付けた。この現象は,ショウジョウバエにおいては見つかっておらず,トリボリウムやコオロギに特異的な現象であると考えられている。この方法を用いると,非常に簡単に遺伝子のノックダウンができることがわかった。現在,この方法を用いて,様々な遺伝子の機能解析を行なっている。特に,発生初期の遺伝子においては,ショウジョウバエの発生初期に発現する遺伝子と相同なコオロギ遺伝子が,ショウジョウバエとは異なる機能を持つことがわかった。解析した遺伝子はOtd, caudal, huchback, even-skipped, armadillo, homothorax, Notch, EGFR等である。このような解析から,コオロギの細胞レベルでの細胞増殖を伴う体節形成のメカニズムからショウジョウバエの多核性胞胚期における同時体節形成のメカニズムに進化したことがわかった。精子核によるトランスジェニック法には失敗したが,より有用な垂直伝播RNAi法を開発でき,このプロジェクトは実りの多いものとなり,多くの研究成果をもたらす基盤ができた。
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