研究課題
若手研究(A)
1)パラジウム触媒による大員環合成を水-有機二相系にて行おうと考えた。その過程で水-有機二相系ではπ-アリルパラジウムがアリルアルコールから直接生成することを見いだした。従来はアリルアルコールをアリル源として用いるのは難しく、酢酸アリルや炭酸アリルといった活性化されたアリル源しか用いることができなかった。しかし、水中では簡便にアリルアルコールを用いて辻-Trost反応を行うことができることを見いだした。すなわち、水溶性パラジウム錯体存在下、室温でアミンやジケトン類といった種々の求核剤がアリルアルコールによりアリル化された。理論計算による反応メカニズムの解析の結果、水酸基に対して水和が起こり、水酸基が水とのクラスターとして脱離することが鍵となっている可能性が高いことがわかった。水酸基は脱離能の低い置換基であるが、水和によって活性化されうるという非常に重要な知見をえることができた。2)有機化合物は水に溶けにくい。このことは水を溶媒として用いるには欠点と考えられている。しかし、この水の特性を積極的に利用することを試みた。水と有機溶媒からなる二相系に有機化合物を加えると、有機化合物はほとんど有機相に溶ける。しかし、若干、水相にも溶け分配平衡が成立するものと考えられる。このとき水相での有機化合物の濃度は低く保たれるはずである。そして、このような二相系での濃度制御は、高希釈条件下での反応など反応制御法として利用できるのではないかと考えた。そこで、水溶性パラジウム触媒を用いて辻-Trost反応による分子内環化反応を水-有機二相系で行った。その結果、水-有機二相系において中員環・大員環ラクトンを収率よく合成することに成功した。この方法によって大量の溶媒を用いずに希釈条件を達成することが可能になった。
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