研究課題
若手研究(A)
屋久島の照葉樹林において、オス・メス数頭のシカの採食行動を春・夏・秋・冬に観察した。その結果、彼らは木本落葉、落下した木本の繁殖器官(果実・種子・花)、草本(シダ植物を含む)をおもに採食していることが示された。一貫して木本落葉の割合がもっとも多く、全体の約半分を占めた。落下した植物繁殖器官の採食割合が次に高かった。落下した植物器官(木本落葉+落下繁殖器官)は各季節の採食割合の5〜9割に達した。なお、落下植物器官にはサルが落としたものが1割含まれていた。草本と木本生葉の採食割合は季節で大きく変化したが、草本は夏期に、木本生葉は冬期にそれぞれ3割を占めた。樹皮の採食割合は1%未満であった。以上から、この地域のシカは林床に落下した植物器官に食物の大半を依存していることが解った。シカの行動域を調査するため、春・夏・秋・冬に6〜8頭の行動域をラジオテレメトリー法によって調査した。その結果、オスの行動域面積はメスに比べ広いこと、メスの行動域は狭い地域に集中していたのに対し、オスの行動域は集中的に利用する場所が数キロずつ離れて複数存在することが解った。調査地のシカの生息密度を調査したところ約70頭/km^2と推定され、ニホンジカの生息地のなかでも非常に高いことが示された。調査地において胸高直径5cm以上の樹木5000本以上調査した結果、調査地の森林は小径木の割合が非常に多いL字構造となっており、10年以上前の状態と比較しても大きな違いはみられないことが示された。さらに、高さ1.5m以下の稚樹密度は、5年前と比べて減少傾向は認められなかった。以上から、調査地ではシカが高密度で生息しているのにも関わらず、長期間森林構造が安定しており、シカと森林植生の共存機構が機能していると推定された。その理由について考察した。
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