研究課題
若手研究(A)
転写因子が発生においてきわめて重要な働きを行うことは自明であるが、特定の動物で転写因子について網羅的かつ統合的な研究が行われている例はほとんど無い。ホヤは脊索動物でありながら脊椎動物よりもはるかに単純なゲノム構造を持ち、そのドラフト配列は決定されている。このことを利用して昨年度までにホヤのゲノムにコードされる転写因子遺伝子を網羅的に同定した。16年度はその情報をもとにそれらの遺伝子の胚発生における発現パターンをホールマントin situハイブリダイゼーション法によって可能な限り網羅的に明らかにした。それによれば、ホヤ胚ではほぼすべての割球の発生運命の決定が行われる110細胞期までに胚性の発現を開始する遺伝子は65個しかないことが明らかとなった。すなわち、この65個の転写因子遺伝子の昨日および相互の関係を明らかにしていくことによってホヤ胚における各割球の運命決定メカニズムの骨格を明らかにすることができることが明らかとなった。同時に、600あまりの転写因子遺伝子のcDNAクローンの塩基配列を決定し、オルターナティブスプライシングフォームを含めた遺伝子の一次構造を正確に同定した。こうした基礎的な情報に基づいて、筋肉細胞の発生運命決定にきわめて重要な働きをもつ転写因子であるCi-machol遺伝子について解析を進め、その下流で初期原腸期胚までに発現を始める転写因子遺伝子を網羅的に同定した。特に筋肉細胞は自律的に分化し細胞間相互作用を必要としないことが知られているので、下流遺伝子として同定された遺伝子が直接筋肉細胞における構造遺伝子の発現に関与している可能性もある。また、Ci-machol遺伝子の下流遺伝子であるCi-Tbx6bは筋肉細胞の分化に必須であることも明らかにし、筋肉細胞分化における遺伝子カスケードの大枠をとらえることに成功した。
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