今年度に公表した研究論文は、一編である。「「宋明思想」研究の現状と課題」と題するもので、そこでは、最近5年間に公刊された「宋明思想」関連の研究書を論評するスタイルをとりつつ、最近の日本の研究状況に対する概括を行なった。そのうち、本研究課題と密接に関連する論点としては、もはや「宋明」という問題の枠組みが通用しなくなりつつあり、我々はより洗練された形で「現場」へと視点を向けなければならなくなってきた、という指摘が挙げられる。これは、本研究課題が「清代後期紹興地方」に着目した、その間題意識を、方法論的に明確化したものだと言えよう。 また、趙之謙・馬一浮それぞれについて、その伝記的研究にも従事した。ただ、これらの項目については、研究論文という形に仕上げるには時間不足であった。今後の課題としたい。 なお、本研究課題は、今年度が最終年度である。本研究課題の成果を今後の研究の進展につなげるため、志を同じくする研究者集団とともに、平成17年度科学研究費補助金「特定領域研究」に応募申請した。「東アジア海域交流と日本伝統文化形成との関係ー寧波の歴史文化についての学際的研究」がそれであり、その中で「寧波における知の営みとその伝統-学脈・宗族・トポフィリアー」という研究班を立ち上げる計画を立てた。この特定領域研究が採択されるならば、本研究課題はそこに発展的な解消を遂げることとなる。言うまでもなく、寧波は紹興に隣接する地域であり、他の研究者とともにその地域を総合的に研究しようとする試みは、本研究課題をより広い文脈において捉え直す作業にもつながることが期待できるからである。
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