研究概要 |
日本語文は漢字仮名交じり表記や平仮名表記,それぞれの分かち書き表記など,異なる表記の仕方が可能であるが,その表記の違いによって読み時間が長くなるなど読みにくさが見られることがある.本研究では,(1)文の読みにくさが眼球運動のどの指標に顕著に現れるのか,そして,(2)文中に挿入される空白の効果(分かち書きの効果)という2点を,以下の4種類の表記文を使用して調べた. ・漢字仮名交じり表記文(以下,漢字仮名文) ・平仮名表記され,分かち書きされない文(以下,平仮名連続文) ・平仮名表記され,文節で分かち書きされた文(以下,平仮名分書文) ・平仮名表記され,言語的なまとまりとは無関係に分かち書きされた文(以下,平仮名ランダム文) これらの文を読むときの眼球運動を測定・分析した結果,次のことが明らかとなった. (1)読みにくさが現れる眼球運動の指標 平仮名ランダム文と平仮名連続文は,平仮名分書文や漢字仮名文よりも読み時間が長くなり読みにくいことが確認された.平仮名ランダム文の読みにくさは,停留時間の長さと順行サッカード距離の短さとして現れた.一方,平仮名連続文の読みにくさは順行サッカード距離の短さとして現れたが,停留時間が顕著に長くならなかった.逆行サッカードの生起率には現れなかった. (2)平仮名表記文の読みにおける空白情報の効果 空白情報が利用できることは,停留中の語の処理を促進する効果よりも,次の停留位置の効率的な決定など,効果的なサッカードの実行により大きく寄与している.また,空白情報が言語的なまとまりを示していなければ,停留中の語の処理が効率的に進まず,語への再分節化といった付加的な処理時間を要してしまうようである.また,適切な空白情報が利用できず効果的なサッカードができない場合,短いサッカードを繰り返すことによって読み誤りや再確認による逆行サッカードが起こりにくいような方略がとられているのかもしれない.
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