研究概要 |
本研究では,特定の既有の知識領域に対する専門性の発達レベルを縦断的に調べ,その専門領域を基底領域とする類推的思考過程(知識の検索,写像)を各レベル間で比較し、専門性の発達と類推の関係を定式化していくことが目的であった。情報処理やコンピュータプログラムを学習するクラスの参加者(大学生)を被験者とし,専門的な知識や技術を学んでいく過程で,コンピュータに関する概念の表現がどのように変化するかを測定する課題を実施した。その結果,学習の初期に見られた大きさや形などの属性的な類似性に基づいて概念を表現するパターンが,授業が進行していくにつれて徐々に減少し,機能的な類似性に基づく表現に変化していくという全体的な傾向が見られた。大半の被験者が生成した表現の多くは,コンピュータの構造上の機能的な関係ではなく,被験者自身がコンピュータを利用する際に必要とする実用的な機能の関係から類似性を見出すというパターンであった。しかし一部の,コンピュータに精通していた被験者は,構造上の機能的関係に着目した表現を行っていた。この結果をより確かなものにするために,科学的概念の専門的理解の促進を目的とする教授的介入を主とする実験授業を実施した。実験授業の効果は,学習した概念の般化可能性を測定することで検証した。その結果,直面する問題の構造に合わせて,学習した概念の構造を操作するための知識を獲得することが,属性的な類似性ではなく,構造的な類似性を手がかりとした知識検索に基づく概念般化を促進することが明らかになった。つまり,ある領域における専門的理解が深まるということは,概念構造を柔軟に変換操作する知識を獲得することであると考えることができる。なお,以上の結果は,2本の論文にまとめ,現在学会に投稿し,審査中である。
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