研究概要 |
子どもにとって獲得が容易なのは名詞か動詞かについては、普遍的名詞優位説(Gentner,1982)と入力言語依存説(Gopnik&Choi,1990;Tardif,1996)とのあいだで世界的な論争が続いている。このうち普遍的名詞優位説は、語に対応づけるべき概念の理解しやすさを重視し、名詞(モノの名前)は動詞より言語普遍的に獲得が容易だと主張し、入力言語依存説は、言語によって動詞の出現頻度や目立ちやすさが違うことに注目し、動詞が目立つ言語を母語とする子どもたちは、動詞を名詞より(あるいは少なくとも名詞と同じくらい)容易に学習しているとしてきた。そして、動詞学習に有利な言語の特徴として、(1)主語や目的語がよく省略され結果として動詞の出現頻度が高い(2)語尾変化がないなど動詞の文法形態がシンプルであるといったことを指摘してきた。ところで、中国語は、主語や目的語が頻繁に省略されるだけでなく、動詞が活用しないため、語形態の面で見れば動詞は名詞と同じくらいシンプルだと言える。そこで本年度の研究では、中国語を母語とする子どもが、英語や日本語を母語とする子供より,また名詞より動詞を容易に学習しているのか検討した。 結果として、中国の子どもにとっても動詞の学習は日本語児や英語児と同様困難なことが見いだされた。それどころか,中国の子どもが動詞を正しく動作に対応づけることができるようになる時期は、日本語、英語を母語とする子どもにそれができるようになる時期よりさらに遅いことも明らかになった。ここから、これまで「子どもの動詞学習を助ける」とされてきた言語の特徴については再考する必要があり、これまで「有利」とされてきた中国語の特徴がかえって中国語児の動詞学習を困難なものにしているかもしれないことが示唆された。
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