研究概要 |
本研究では,Loevingerの提唱した自我発達理論に基づき,日本の青年期における発達傾向について検討した。前年度までの検討において,(1)小学校高学年から高校生にかけて,自我発達水準の高い者の割合が増加する傾向があること,(2)自我発達水準には性差があり,同年齢では女子の方が自我発達水準の高い傾向があること,(3)女子で早く自我発達水準が上昇し,早く安定する傾向があること,などが明らかにされた。 その中で,特に大学生年齢について取り上げてみると,上記のように,この時期は自我発達水準が安定する時期でもある。しかし,個人にとって重要な環境変化が存在すると,自我が揺れ動くことがある。専門学校生を対象とし,入学時とその1年半後にWUSCTを実施した結果からは,自我発達水準の変化が見られないと言えるだろう。ただし,この傾向は,男女で異なる可能性があると思われ,自我発達水準において,女子の方が変化のない割合が高かった。入学から1年半たった時点では,現在所属している文脈にも慣れたことにより,自我発達水準において安定性が見られている可能性が考えられた。この傾向について考察してみると,入学時は,新しい文脈に対応している時期であり,新しい文脈に適応するために自我発達水準の変容が起こりやすい時期なのかもしれない。そして,自我発達水準の違いによって,新しい環境への適応の仕方に違いが生じる可能性がある。 これらのことから,新しい環境への適応がどのように行われるのか,その適応の仕方が個人の自我発達水準に影響されるのかどうかについて,月1回縦断的に精神的健康について記入を求め,自我発達水準との関連の検討をおこなうこととした。入学当初において,気分がポジティヴな者とネガティヴな者が存在しており,彼らがそれぞれ,時間経過と共に,どのような気分の変動をたどるのか,分析中である。
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