研究概要 |
本年度は,長野県内の2つの私立幼稚園において観察を行った.目的は幼稚園の活動の中で,先生が子どもにどのようなタイミングで,どのような言葉がけをしているかについてデータ収集を行うことであった. 2つの幼稚園のうち1園は,集団一斉保育を行っており,年少児の2クラスの「折り紙」の活動を観察し,先生と子どもたちのやり取りをビデオテープと筆記で記録した.もう1園は3学年縦割りの自由保育を行っており,集団で決まったカリキュラムを行うことはなかったため,子どもの遊びに研究者も一緒に加わる参与観察のスタイルをとった.このため,記録は観察終了後に思い出したやりとりを書き留めるという方法で行った. 一昨年に首都圏の幼稚園2園で行った観察のデータと併せて分析を行った.分析のポイントは,先生と子どものやりとりのうち,先生が子どもを「ほめる」言葉がけを抜き出し,その前後の文脈とあわせて,何に対してどのようなタイミングで「ほめる」行為を行っているか,であった. その結果,子どもたちが先生に対してほめてもらおうとする働きかけのほうが,先生が子どもたちを「ほめる」言葉がけの回数よりも多いことがわかった.ただし,先生1人に対し,子どもは20名から30名いるため,先生は物理的にひとりひとりを十分に「ほめる」ことができない可能性が考えられた.また,先生からの指示に従った場合に「ほめる」という,子どもの行動のコントロールや望ましい行動への強化子として「ほめる」言葉がけが使われていることが明らかになった.一方で子どもの達成に対して,先生のほうから積極的に「ほめる」言葉がけをする場面は多いとは言えなかった. 以上のことから,幼稚園の活動の中では「ほめる」という言葉がけは,子どもの達成動機を引き出すことを意図して使われることは少ないと考えられた.つまり先生の側からは,子どもが自発的に課題に挑戦することを期待するよりも,受動的でコントロールしやすいことを期待しているのではないかと推測された.
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