ヴァレリー空間論の展開について、平成14(2002)年度は主として数学・科学思想的側面に軸足を置いて研究したが、平成15(2003)年度は、その成果をより巨視的に、哲学、文学的文脈にまで拡張して考究した。すでに平成14年9月に韓国ソウルで行われた国際ポール・ヴァレリー学会における口頭発表「ポール・ヴァレリーと空間直感の限界」のなかで、ヴァレリーにおけるリーマン幾何学の影響と、その宇宙論への展開を、作品『固定観念』を題材に分析したが、平成15年度は雑誌掲載用(Bulletin des Etudes valeryennesただし編集者である学会主催者の事情により出版媒体変更の可能性あり)の論文にまとめるにあたって、調査した当該作品草稿などをもとに、大きく加筆を行った。さらに平成15年度は、ヴァレリーの未完の対話篇で、宇宙認識を大きな主題とする『神的なる事柄について』の草稿調査をパリにおいて行い、また当該作品に関連したヴァレリー研究書や周辺文献を日本やフランスで購入した。そうした資料収集をもとに、当該作品を翻訳し、解題を加えた以外に、当該作品をヴァレリーの思想体系のなかに位置づけ、また彼の他作品とりわけ『『ユリイカ』をめぐって』と比較しながらポーやマラルメ、プラトンなどの影響を指摘した論文『想像界としての劇空間』を著した。上述の翻訳と論文は、平凡社刊『未完のヴァレリー』(京都大学人文科学研究所助手森本淳生氏との共著)に収録し、平成16(2004)年10月に出版予定である。
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