平成15年度は、前年度のテーマを発展させ、新しい女性表象の誕生とその背景を考察した。 20世紀初頭の日本において、「新しい女」のジェンダーとセクシュアリティーを巡る言説が「女学生神話」として確立していく様子については、これまでの研究で追ってきたが、今年度は、言説と「場」との関係を考えた。西欧の影響をうけた近代的な装置によって、こうした言説が補強されることを考察したのが、論文「市民社会の中の女性表象-日比谷公園と明治の「女学生」を巡る言説」(筑波大学特別プロジェクト研究報告書「比較市民社会・国家・文化」掲載予定、現在印刷中)である。 また、新しい女性表象を生み出していく過程での、男性作家の側の変化にも着目した。西欧の世紀末文学における男性表象と、男女の力関係の逆転の構図が日本文学にもたらしたものを分析したのが、論文「ダンヌンツィオを目指して-森田草平『煤煙』における新しい若者像」である。そして、こうして造形されるに至った新しいヒロイン像の隆盛が実際の女性たちの言説にどのように関わっていうたかを検証した結果、彼女たちが発信する宿命の女表象や、女性同性愛表象は、単なるセクシュアリティーの表明ではなく、「主体的な性」を獲得するための闘争の一過程でもあったことがわかった。その成果の一端が、チュニジアにおける国際学会での口頭発表(2003年4月)と、論文「ロマンティック・ラブと女性表象-「新しい女」を巡って-」及び"La litterature japonaise et le modernisation : la transgression des roles figes de la Nouvelle Femme dans les annees 1910"(Proceedfings of the 1^<st> Tunisia-Japan Symposium in Humanities & Social Sciences掲載予定、現在印刷中)である。
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