研究概要 |
本研究の最終年度である本年度は,これまでの研究成果をふまえつつ,「現代積極国家」における「表現の自由」論を確立する作業に従事した. これまで,平成14年度の研究により,本研究のための基礎理論的な視座を確立し,また,平成15年度には,特殊の表現主体である放送メディアに注目し,「放送の自由」論の研究に従事した.これらの研究の結果,近代的な国家像と区別される現代的な国家の下での「表現の自由」論の在り方を展望することができるようになった.そこで,本年度は,表現主体の主観的な利益には還元されない,表現の自由の社会的・客観的な意義を,憲法論上如何に位置づけうるか,という観点から,日本の憲法学における選挙権論の研究を行った.民主政治の前提としての選挙権をめぐる議論は,表現の自由が有する社会的・客観的意義に注目する本研究にとって,有益な視座に富んでいると考えられたからである.他方,本研究は,「給付」主体である国家を制限する理論として,アメリカにおける所謂「パブリック・フォーラム」論に注目してきたが(平成14年度の研究成果の一つである拙稿「『表現の自由』論の可能性(二・完)」法学67巻3号(平成15年)40頁,99頁を参照),本年度は,その「パブリック・フォーラム」論が本研究に対して有する意義と限界とをさらに探究する研究を行った.表現の場を提供する政府を制限しようとしてきたアメリカの「パブリック・フォーラム」論は,伝統的な「表現の自由」論を,「現代積極国家」における実効的な「表現の自由」論へと構築していくための示唆に富んでいると考えられたからである. 以上の研究により,現代積極国家において実効的な理論となりうる「表現の自由」論の構造と,近代国家を前提とした伝統的「表現の自由」論との異同を解明することができた.本年度の研究の成果は,2年以内のうちに公表する予定である.
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