研究概要 |
本研究は、海外直接投資が受入国の生産性向上に貢献しているかどうかを明らかにすることを目的としている。まず、国際的な所有権の移転として定義される直接投資がどのように受入国での設備投資に結びつくかという点を明確にするために、生産要素として企業の経営資源を生産関数に導入した理論モデルを構築した。60カ国以上のパネルデータを用いてそのモデルを推定し、計量経済学的に技術移転効果が存在するかどうかを検定している。本稿の特徴は、(多くの先行研究でみられる)直接投資と資本ストックの増加率の相関を直接投資の効果の指標として用いることについて、,明確な理論的基礎を与えたことである。 先行研究においては、人的資本の蓄積が不十分な途上国では直接投資が設備投資に十分な効果を与えないという経験的証拠が示ざれているが、本研究の理論モデルの結論はそれらの証拠と整合的なものとなっている。さらに、世界銀行の研究者によって開発されたガバナンス指標を用いて調査を行ったところ、人的資本の蓄積よりもむしろそれに影響を与える社会インフラや制度などの未整備こそが、直接投資の設備投資への効果を決定するという証拠が得られた。 また、上記の結論を確認するために別のデータを用いて調査を行ったところ、金融システムの種類の違いおよび発展の程度が貯蓄と設備投資の相関の度合いを決定しているという新たな結論が得られた。この点については、独立した論文にまとめており、既に国際的な経済学の学術雑誌であるEconomics Lettersへの掲載が決定している。
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