研究概要 |
金属表面に吸着した単一吸着子を介した非弾性トンネル電子分光(STM-IETS)の理論を展開した。金属基板、吸着子、吸着子上の振動モード、STMチップからなる系を考え、吸着子の振動励起を介した非弾性および弾性トンネル過程を、解析的および数値的にしらべた。これは、振動系を組み入れたAnderson模型として扱える。基板とSTMチップとの間のバイアス電圧は二つの系のケミカルポテンシャルの差としてあらわされるため、非平衡電子分布を扱わなければならない。この困難を克服するために、非平衡Green関数法を用いて解析した。また、モデルの一般性から、振動系とカップルした局在電子系を介した電気伝導の解析にも使えることに着目し、最近の実際の実験結果(N.Agrait, C.Untiedt, G.Rubio -Bollinger, and S.Vieira, Phys.Rev.Lett.88,216803(2002),R.H.M.Smit, Y.Noat, C.Untiedt, N.D.Lang.M.C.van Hemert, and J.M.van Ruitenbeek, Nature(London) 419 906(2002))と比較検討した。 数値計算を用いることによって、実験で観測されるべきSTM-IETSスペクトルが、トンネル電子が経由する電子状態によって様々な形状を取ることを示した。この数値計算の結果は、通常のW.HoらのSTM-IETSの実験とも定性的に一致することを確認した。また、前に述べたような、二つの電極にはさまれた分子・原子チェーンを介した電気伝導の振動モードに関する影響に対しても定性的一致を見た。 これらの結果は、表面科学会誌の招待論文として、またPhysical Review Bに掲載され公表され、高い評価を得ている。
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