研究概要 |
数理生物学、ゲーム理論などの様々な分野で研究されている一般的な生物ネットワークモデルに対する、統計力学的研究を行った。特に、種数が多く複雑で多様な種間相互作用をもつ系が進化する条件を調べた.この成果はTheoretical Population Biology誌に掲載された(研究発表2,Tokita and Yasutomi,2003).さらに、実際の生態系で普遍的に観察される、いわゆる「種の豊富さのパターン(各種の個体数の分布を特徴づける巨視的なパターン)」を示していた.この群集モデルがもつ相互作用の対称性から、種の豊富さのパターンに対する統計力学的な理論解析が可能となり、環境条件および系の生産力や成熟度に関係する単一のパラメータに対して、共存する種数、個体数の分布、種の豊富さのパターンなどを解析的に得ることができた.個体数の分布は、実際の野外研究で観察される、「左に歪んだ」「カノニカル」な対数正規分布に近い形をとることもわかった。パラメータに依存する分布の形の変化も、野外研究での観察と一致していた.この成果はPhysical Review Letters誌に掲載された(研究発表3,Tokita,2004).これまでの種の豊富さのパターンについての理論は、単一栄養段階で競争関係にある比較的単純な群隼のみに適用可能であったが、本研究によって、より一般的な大規模群集に対しても適用可能な理論が初めて構成された.これは、本研究課題が目指した、統計力学的な視点の種多様性研究に対する有効性を示したといえる.また、上記のモデルとは異なるクラスの「反対称」相互作用をもつレプリケーター系(研究発表1,Chaawanya and Tokita,2002)に対する種の豊富さのパターンに関する統計力学的定式化も行い、野外研究でよく観察される分布(対数正規分布、マッカーサーの折れ棒モデルと等価な指数分布、フィッシャーの対数級数則など)を解析的に導くことができた.
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