研究概要 |
今年度は(1)1996年8月に宮城秋田山形県境付近で発生した「鬼首地震」による地震時地殻変動、(2)伊豆大島火山のカルデラ域における経年的沈降の「微細構造」の検出に成功した。以下にそれぞれの概略を述べる。 (1)1996年8月11日に宮城秋田山形県境付近の鬼首地域でM5.9の地震が発生した。地震そのものの規模は大きくないが震源深さが10kmよりも浅かったために,現存するGPS等の宇宙技術によって検出可能な地表変位が現れた。しかしM5.9の中規模の地震による地表変位は水平距離で10km程度にしか及ばず,山間部での地震であったためGPS受信機の空間分布は疎らなため断層モデルを推定できるほどの空間分解能では検出できていなかった。今回JERS1(ふよう1号)のデータを用いて干渉SAR解析を行い,独立な3ペアにつき地震時地殻変動を検出できた。その結果は余震分布で推定された断層モデルで概ね説明できるが,空間的な広がりの点で地震学的には説明できない変位が得られている。 (2)伊豆大島カルデラにあっては,JERS1データの干渉SARによって経年的な沈降が報告されている。この事実に基づき「多重干渉SARによる経年性地殻変動検出」のテストフィールドとして伊豆大島カルデラを選び、ERS1/2による干渉SAR解析を行った。ERS1/2のデータを用いたことによって、沈降の微細構造が判明した。沈降域と過去の溶岩流域や火口域との比較の結果、最大の沈降は1986年の噴火でできたスコリア丘の最高比高点(42m)の付近であること,沈降域は1951年と1986年の溶岩流の領域にほぼ対応していることが判った。しかし溶岩流の厚さは高々40mであり,噴火後10年以上を経ても熱収縮効果が続くことは考えられない。カルデラ内にある観測井の物理検層の結果から表層の地震波速度は遅く、物質そのものも多孔質であることが判っていることから,地表に流れ出た溶岩流が表層の多孔質媒質を圧密していると考えられる。こうして,従来の沈降のメカニズムを新しい視点から解釈しなおす必要があることを示した。
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