堆積構造の三次元的特徴を理解するために、砂床形態を3次元的にとらえる必要がある。そこで、本質的に3次元形状であるバルハンと呼ばれる三日月型をした地形に関する水理実験を行った。バルハンは貧砂状況時に発生し、三日月の2つの先端(先端周辺を角(ホーン)と呼ぶ)を下流に向け、ホーンの間の湾部はスリップフェイスを形成する。従来、バルハンは水や空気が長時間一方向に流れる場でのみ発生すると言われてきた。しかし、自然界で、流向が絶えず一定している場所はほとんどなく、季節変動や時間変動など様々なタイムスケールでの流向変化に加えて、カオティックな揺らぎなどが作用するのが普通である。 そこで、本研究課題では、表面波を発生させることで底面付近に、短周期(1.5秒から3秒)でリズミックに流向が変化する流れ場(振動流場)を作り、その中で安定して存在する砂床形態を調べた。実験結果は、従来の見地と異なり、振動流でもバルハンが発生することを示した。ただし、振動流は表面波に起因しているため、完全に対称的ではなく輸送(物質移動)を伴う。つまり表面波の進行方向と同じ向きに砂が移動し、この向きにバルハンはホーンの先端を向け移動する。ここで注目すべき点は、周期によってバルハンの形に違いが見られたことである。周期が1.5秒の場合は上流側の輪郭も、下流側の湾の部分の輪郭も直線的であり、全体的に「矢じり」型であったのに対し、周期が3.0秒のときは輪郭が丸みを帯び、全体的に「トランプのハート」型であった。バルハンに分類される自然地形どうしを比較しても、形は様々である。しかし、これまでは、それらの形状の差異は全く議論されずに、すべてバルハンとしで分類されるにとどまっていた。今回、バルハンの形にバリエーションがある理由について考える際の、重要な手がかりを得た。表面波を用いているので、周期は流れの非対称性と関連しており、これが地形に影響を与えていると考えられる。バルハンの向きから長期的な物質輸送の向きが、形状から短期的な流向変化の頻度がわかることになる。
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