研究概要 |
本邦から多産する白亜紀アンモナイトDamesitesについて,集団標本を用いて個体発生と個体変異を解析した.その結果,かねてより分類学的な意見の不一致があったDamesites damesiとD.semicostatusは,それらの殻体表面装飾と個体発生パターンに基づき明瞭に区別されることが明らかとなった.前者の殻体は幅広な細肋で特徴づけられる.ただし,細肋の高まり(強さ)や配列パターンには個体発生的変異と種内変異が著しい.一方,後者の殻体には幅の狭いシャープな細肋が発達する.これらの細肋は,個体発生を通じて整然と配列されており,常に鋭い高まりを保っている.また,前者の殻表面には必ずちりめん皺状の微細構造があるが,後者にはそれが全くない.これら2種は北西太平洋地域の固有種でともにコニアシアンからカンパニアンのレンジを持つが,両者が同一露頭から産出することはない.さらに,北海道からロシア・サハリンにかけての各地域でD.semicostatusの産出層準は異なり,かつ,それぞれの地域で極めて限定された層序区間にある.よって,同種は白亜紀後期の約1800万年間,北西太平洋の中・高緯度域で主要な生息海域を変化させながら生存し続けたと推察される.本成果の一部は学術雑誌に投稿中である. 本年度は以下の成果発表を行った. 1.北海道蝦夷層群の岩相層序の総括と北太平洋地域の白亜紀古項境学ついての成果を国際学術誌に出版した. 2.蝦夷層群におけるアンモナイトと浮遊性有孔虫を用いた国際標準の化石年代論を議論し,環太平洋地域における下部・上部白亜系推移部の年代層序学のスタンダードを築いた.この成果を万国地質学会議(イタリア)でポスター発表した. 3.内側陸棚相,外側陸棚相,大陸斜面相のアンモナイト群集を比較検討しアンモナイト殻体の表面装飾と生息域の関係を考察した.HCSやリップッルマークが卓越する陸棚砂相では細長い螺環を持つZelandites inflatusが多産し,すべての堆積相で多産するDesmocerasの螺環幅は沖合の静穏な環境を示す泥岩相ほど太くなる.この事実は機能形態学的に細い螺環ほど流速が早い環境に,太い螺環は流速が遅い環境に適応するという見解を支持する.この成果を国際頭足類シンポジウム(米国)でポスター発表した.
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