研究概要 |
サンゴ骨格を用いた海洋環境復元は大きな期待を集めている。骨格の環境指標の中でも重要なのは「酸素同位体比」と「ストロンチウム/カルシウム比(Sr/Ca比)」である。近年,長尺サンゴ試料分析例が多く報告されてきているが、これらの骨格化学指標と水温あるいは塩分との関係式には、誤差や研究者間の差異が大きい。そこで、野外ではなく、水温等を制御した実験水槽で飼育されたハマサンゴ属の炭酸塩骨格中の酸素同位体比およびストロンチウム/カルシウム比の水温依存性を高い精度で定式化することが、本課題の目的である。課題2年目にあたる平成15年度は、サンゴ骨格の酸素同位体比について考察を深めるとともにSr/Ca比の分析を行った。恒温水槽を用いて6ヶ月間に渡り飼育したハマサンゴの骨格染色実験の観察では、飼育期間中に2〜5mmの骨格成長量が認められた。この実験では21℃から29℃にまでの5段階の温度区で、各5群体ずつの飼育が行われた。このサンゴ骨格をスラブ(厚さ7mm)に加工し,超音波洗浄器を用いて純水洗浄した後、ボール盤式の切削装置を用いて、成長軸方向に0.4mm間隔で微小サンプリングを行い、切削されたサンゴ骨格粉末の酸素同位体比を測定した。骨格の酸素同位体比と水温は負の相関関係を示した。同様の関係はSr/Ca比についても確認された。酸素同位体比については、同一温度区内について大きな群体間変異がみとめられた。これは骨格の酸素同位体比が,低成長速度において,骨格の成長速度に依存することに起因すると考えられる(反応速度論的同位体効果).この結果は、安定同位体サンゴ骨格気候学への示唆に富む。高精度環境復元には,骨格成長速度の大きい群体について最大成長軸に沿うサンプリングが極めて重要であり、今後の飼育実験に,クローン骨格片を用いることが強く求められる。
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