研究概要 |
数十個程度の原子で構成されているサブナノメートルサイズの金属・半導体クラスターは,電子デバイスなどの機能発現単位として大きな可能性を秘めている.申請者は,昨年度,電気泳動法と質量分析法を用いて,チオール単分子膜によって保護されたこのようなサイズ領域の金属・半導体クラスターを特定の組成ごとに分離することに成功した.本年度の研究では、さらに,クラスターの調製法を改良し,質量分析装置の分解能向上及び構成方法の改良を加えることにより,従来より高い精度で化学組成を帰属することに成功した.例えば.グルタチオン(GSH)分子で覆われた金クラスター(Au:SG)において.これまでAu_<28>(SG)_<16>と帰属されていた複合体は,本年度の研究から,Au_<25>(SG)_<18>であることが明らかとなった(0.2%の誤差).これらの結果,特定組成のクラスターが選択的に生成されるメカニズムや電子状態と組成の関係について新しい知見が得られた.Au:SGクラスターについては,クラスター内の金コアのサイズと裸の金クラスターにおける安定なサイズの比較などから,クラスターの安定性は生成反応における速度論的な要因により支配されていることが分かった.これらの複合体のAu4f光電子スペクトルを測定した結果,金からチオールへの部分的な電荷移動が起こっていることを示唆する結果が得られた.また,紫外可視吸収スペクトル・蛍光スペクトルの測定から,これらのAu:SGクラスターは,分子的な電子構造を有していることが明らかになった.理論計算との比較により.スペクトル内に現れたピーク構造の帰属も行った.カドミウム-硫黄クラスターに対しても同様な実験を行い,一連の化学組成のクラスターの単離に初めて成功すると共に.化学組成と電子構造の相関について明らかにした.
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